2009年05月04日

伊藤計劃「The Indifference Engine」

今年のGWは暇なので本を読んでいる。暇でないGWもどうせ人と会うわけでもないので空いている時間には本を読むしかないわけだが、買い込んだまま未読で溜まっている本を消化できるのはとにかくよいことだ。

といいつつ新しい本も買った。うち一冊がこのアンソロジー「虚構機関」。2007年の日本SF短篇傑作撰集だが、目当ては一篇だけ、先に亡くなった伊藤計劃さんが世に残した数少ない作品のひとつ「The Indifference Engine」だった。

最悪よりもっと悪い状況を行進する子供十字軍。読後、西原理恵子の「うつくしい のはら」を思い出した。戦争の本質を独自の手法で見事に表現し得たクリエーターが同時代に存在する/したことの幸運を思わずにはいられない。
SFの枠組みで書かれているこの小説がすぐれたSFとして評価されることにはもちろん何の異存もないが、それでも「SF」の冠ゆえに一般の小説読者、とりわけ心打たれる読書体験を求めている人たちの目にこの作品が触れていないのであれば何とも不幸なことだと言わざるを得ない。それはSFの罪ではまったくないのだが、それにしても。

実際、この小説の中で描かれる暴力、そして先進諸国の杜撰な介入はおそらくアフリカやチベットで現在進行形の悲劇と相似形だ。高い純度で世界の陰画を描いた「虐殺器官」からさらにエッセンスだけを抽出したようなこの短篇では、痛ましさはより切実で直截に迫る。
いま現に起きている出来事の本質を、人間性の剥奪に関する残酷な寓話として定着させた伊藤計劃の小説技術の高さに改めて感じ入る。そして、この作家がもはや次作を書くことはないという事実の重みにもまた。

他の収録作についての感想は、また日を改めて(書かないかもしれないけど)。漠然と感じていた和製SFとの距離感を埋めるまでには残念ながら至らなかった。
ゲームデザイナー小島秀夫さんのブログで伊藤さんの顔写真を拝見する。いつの撮影かはわからないが、おそらく闘病中のものだろう。少年の面影が残る画像に、夭逝を惜しむ思いを新たにした。
posted by NA at 03:14| 東京 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ラッシュガード クイックシルバー
Posted by rashguard at 2013年09月04日 20:20
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