2009年02月16日

十三番目の陪審員(芦辺拓)

出張時に購読。最近の和製ミステリとはどうにも相性が悪いのに懲りずに買ってしまった。芦辺拓は初めて読む作家だ。指定席に座って冒頭の文庫版への「はしがき」と、とんでもない大事故を描いた「プロローグ」を読んで「やべ、またつかんだ」と思った。きっと荒唐無稽な作品に違いないぞ、と。
食わず嫌いはよくない。約二時間半後、降車駅手前で四百頁あまりを読み終わった私は不覚にも感動を覚えていた。ミステリ史に残る大傑作であるとは言えないだろうが、いけるじゃん、これ。和物も捨てたものではない。先日の「スピードレーサー」に続いてまたもや悪くない誤算だった。

物語の舞台は陪審員制度が施行された日本。仕組まれた冤罪事件を巡る法廷ドラマなのだが、裁判に至る経緯も相当乱暴と言えば乱暴だし、陪審法廷でのやりとり、判決とどんでん返しの組み立ても、ちょっとどうよ、と言いたくならないでもない大胆な内容ではある。
だが、この作品を貫く作家の志に降参した。フィクションを通じてこれほどまでに熱く世直しのメッセージを語られるとは正直思っていなかったのだ(最初から社会派風の装いで語られていたのに)。論理の産物であるべき推理小説と、かくあるべき司法制度を描いたユートピア小説の両立がぎりぎりのところでなされている、そんな作品だった。

前のエントリでも書いたけど、私は自分が誰かを裁くという場に立ち会うのはできればごめんこうむりたいと思っている。どんな極悪人であれ、他人の運命を左右する立場になりたいとはまったく思わない。そういう意味では市民の司法参加を促す作者とは立ち位置が異なる。ただ、作品を通じて示された現在の司法制度への問題意識や弁護士の理想像などは大いに共感できるものだった。
この作家は少し前に「裁判員法廷」という作品も書いている。機会を見て読んでみようと思った。
posted by NA at 04:22| 東京 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
司法って…なんだろう…?
Posted by BlogPetのめち at 2009年02月17日 14:30
推理とユートピアの両立がなぜ成せた?

「十三番目の陪審員」、良さそうですね。
いまだに疑問のある裁判員制度ですが、推理と
ユートピア、興味あるなぁ〜。
(個人的には、裁判官はいるのはなぜ?という根源的な点で未だに腑に落ちない、不思議なのです・・・)
8月に『スクールガール・エクスプレス38』という新作が
出たとのことで、どっちを先に手を出そうか、思案中です。

しかし楽しい作品を生み出す秘訣って、どこに
あるんでしょうって思ったので、ネットで探して
みました。
まぁ、核心部分は無かったんですけど、芦辺拓さんの
性格を分析しているサイトを見つけました。
http://www.birthday-energy.co.jp

常に見直してないと気が済まない性格らしいです。
道理で好不調があったりするんですね。
でもチャレンジされてるってことでしょうし、このままがんばって〜。
Posted by きっこ at 2012年10月05日 10:14
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/114316098
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック