2008年11月14日

現代日本を舞台にしたスパイ小説は可能か

何か大上段に振りかぶった表題つけてますが羊頭狗肉なので気をつけるように。いつものことですが。

ここしばらく出張続きで、久しぶりにいろいろ本を読んでいた。iPhoneのバッテリーがあまり保たないため移動時間の娯楽にはやはり本が必要になる。地方の本屋の手書きPOPを愛でながら平積み本をさくっと拾って買うのも、また旅ならではの風情があってよろしい。
この「ジョーカー・ゲーム」もそうやって入手した本のひとつだ。帯にやたら各地の本屋の店員らの推薦文が載っているのは最近の流行なのだろうか。東京で売れているのかどうかは知らないが、本屋受けする本はさほど面白くないのでは、との予想に反して結構引き込まれて読んだ。

太平洋戦争前、日本陸軍内に極秘に創設されたスパイ養成組織(中野学校を髣髴させる、と思ったらやはり下敷きにしていたようだ)「D機関」を舞台とした連作短篇集。とにかくクールで異常に頭の切れる謎のリーダー結城中佐が、自ら育てた配下を手足のように操って敵を欺き目的を達成する、というスパイものの常道プロットをきちんと踏襲しており読者の期待を裏切らない。上質のエンタテインメント。
エーベルバッハ少佐に26人の部下がいるように結城中佐にも12人ほどの手下がいるらしいので、この連作はまだまだ続くとみた。乞続刊。
しかし、実際にこれだけ優れたインテリジェンスが戦前の日本軍にあればあんな馬鹿な戦争を起こしてあんな馬鹿な負け方はしなかったわけで、そのへんちょっと空しくもなる。続編があったとして、作中でどう折り合いをつけるんだかつけないんだか。

東西冷戦はジョン・ル・カレのスマイリーシリーズをはじめとする数多くの傑作スパイ小説を生んだが、翻ってこの時期のわが国を舞台にしたスパイ小説は質・量ともさほどないのでは、という印象がぬぐえない。いっぱいあったらごめん。
先日再読した、傑作として名高い結城昌治の「ゴメスの名はゴメス」も、現在の視点から評価するのはフェアでないかもしれないがスパイ小説というよりは異邦を舞台にしたハードボイルドの色合いを強く感じた。あ、景山民夫が中国に行かずに「虎口からの脱出」を書いた、というのは結城昌治へのオマージュかパクりだと思います。

さておき。
アメリカの属国と化してしまった戦後日本は、各国のスパイが跋扈する情報戦の場所貸しはできても、政府やら内調やら自衛隊やらが当事者としてプレイするのはどう考えても現実味乏しく興趣を著しく損なう。現代では「ジョーカー・ゲーム」に登場するような諜報戦はなかなか成り立ちにくいのではないか。
だが、とここで考え直す。実はそうでもないのかもしれない。というのも、日本の戦後六十数年はどうも物事概してうまくいき過ぎているような気がしてならないからだ。連合国に負けたのに国土が分割されることもなく、すぐに自治を回復したと思ったらたちまち急成長、繁栄のし過ぎだ。何か間違ってないか。何かの力が働いた結果ではないか。

となると当然陰謀論の出番だ。敗戦のその日から動き出した闇のエージェントたち。彼らは日米の政財界で様々な工作を繰り広げ、まず日本が米国の支配下に入ると見せかけて巧妙に国体を護持し続けることに成功した。押し付け憲法にいやいや従うふりをして再軍備のコストを省き、アメリカの犬であるように見せかけて力を蓄え続けたあげく、いまや主人を逆にコントロールするに至ったのである。じゃん。サブプライムローン破綻を契機とした百年に一度の世界的金融危機も実は裏で日本が糸を引いていたのであって、昨今の「日本買い」は戦後六十三年を迎えた日本の到達点なのであった。じゃんじゃん。
こういう前提であれば近現代を舞台にした和製エスピオナージュは可能かもしれない。自主独立を図る政治家を失脚させ、対米従属政策を推進するためにわが国のスパイたちが暗躍するのである。もちろん安保理常任理事国入りが失敗したのも国策なのだ。サッカーの日韓ワールドカップ共催もまた然り。世界に対しては常に貧乏くじを引いているように見せかけて、実質的に繁栄を勝ち取るよう日本の諜報部員らは日夜活躍しているのだ。偉大な町人国家の建設のために。

書いていて馬鹿馬鹿しくなってきたが、意図的かどうかはともかく外国から見たらこの方が結構実情に合っているような気がしないでもない。もともと目立ちたがり屋ではないのが日本人の気質だ。身の丈にあった国家運営をすべきだという集団的無意識が働いていても何ら不思議ではないと思う。
というような小説の前例が過去にあったかどうかは知らないが、ともあれ「ジョーカー・ゲーム」はいろいろと示唆的なのでみんな読むといいと思ったのだった。
posted by NA at 03:57| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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