2008年08月21日

深く重い「ダークナイト」

「インクレディブル・ハルク」に続くアメコミ映画ということで躊躇したものの、結局観てしまった「ダークナイト」。世評通り確かにすごい作品だった。凄惨な銀行強盗の場面から始まる152分間の長尺を始終緊張して見守り、終わったときには深く溜息を吐いた。三本分ぐらい観たような気がした。

いろいろなところで賞賛されているとおり、若くしてこれが遺作となってしまったヒース・レジャー扮するところの悪役「ジョーカー」の存在感はとにかく際立っている。金や権力目当てでなく、ただ犯罪のために犯罪を行うジョーカーは、ひたすら損得勘定抜きでゴッサム・シティの平和を守ろうとするバットマンの対極であり陰画とも言える。「なぜ悪を行うのか」という問いかけはそのまま「なぜ善を行うのか」に転化し得るという、虚無的な世界観が映画を貫いていることに慄然とする。
映画の中で「理由なき悪」からの無差別攻撃に右往左往する市民の姿を、テロリズムの予兆に怯えながら911後の日常を生きる米国民が自分らに重ね合わせて観たであろうことは想像に難くない。米国映画史上空前のヒットもむべなるかな。
映画の最後、警官殺しの汚名を着て闇に消えるバットマンの姿は、さしづめ無差別テロに対する手段を選ばぬ報復の宣言であろうか。

と映画批評の真似をしてみましたが文章うまくないな俺。もっともらしい分析は専門家に任せておこう。
やっぱりこの映画はジョーカーだよジョーカー。銀行強盗の手下の処遇、鉛筆を消す手品(!)、人間爆弾点火、看護婦コスプレと病院爆破(本当にまるごとビルを吹き飛ばしたらしい)……ともう印象的なシーンを挙げたらきりがない。半径四億キロ以内に絶対存在してほしくないキャラクターをあそこまでリアルに表現しつくしたヒース・レジャーはすごすぎる。
脚本もすばらしい。ネタバレは避けるが、将棋で言えば「もうここで飛車角切るのかよ!」みたいな(喩えになってないね)ストーリー展開。いやはや。終盤のフェリー二艘に搭乗した市民らが究極の選択を迫られるエピソードには手もなく翻弄されてしまった。もう本当に小憎らしいとしかいいようがない。

そして音楽がえらく気に入った。作曲家によるとフィリップ・グラスあたりのミニマルを意識して作ったらしい(⇒Variety Japan | 『ダークナイト』はテーマ曲なし)が、ミニマルの中でもルイジ・ノーノの寡黙で強靭な作風の影響が強く感じられたのは勝手読みに過ぎようか。現代音楽の最北端がようやく自らにふさわしい場を得たように思えて嬉しかった。

しかし、同じく善悪の対立を扱ったコミックを原作とした映画というと思い出すのがわが「デビルマン」だ。公開前から悪評の嵐がネットで吹き荒れていたのは有名だが、今アマゾンのカスタマーレビューを見てもすごいことになっている。これだけ不評の商品を売っているというのも珍しいのではないか(DVD化されたこと自体が奇跡かもしれない)。まあ逆にそこまでひどいのならば格安の中古を一枚買ってもいいかな、という気になったりもするが。
「スピード・レーサー」が興行的には大コケしてしまっただけに今すぐ類似の企画が通るとは思えないが、いつかハリウッドで「デビルマン」を成仏させていただくわけにはいかないものでしょうか。原作のファンとしてはそれを願うしかない。
posted by NA at 09:27| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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